反復測定分散分布

 StatView多変量解析入門 

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目次
全例題

反復測定分散分析
Repeated-Measure Analysis of Variance (ANOVA)?
例題04
手術侵襲が免疫系に与える影響を検討するために、手術開始前・手術開始 1 時間後・手術 (摘出) 終了時・麻酔終了後の 4 時点において指標となる物質の血中濃度を測定した。しかし、指標となる物質の血中濃度は元来個人差が大きいことが判明しており、治療前から既に大きなばらつきあった。治療前のばらつきによる影響を除外して、治療による影響だけを詳細に検討するにはどうすればよいだろうか?


1. 反復測定分散分析とは

 分散分析は、いくつかの要因で分類された群について全ての群の平均値が等しいかどうかを検討する際に用いられます。この分析で計算される危険率 ( p 値) が設定した有意水準よりも小さい場合には、「等しいとは考えにくい→差がある」と判定します。 反復測定分散分析とは、群間要因によって生じる群間変動と共に、同一個体内での条件の違いなど対応関係のある要因 (群内要因) によって生じる群内変動について、誤差変動 (全体変動から群間変動と群内変動を引いたもの) に比べて大きいかどうかを判断する解析方法です。この解析方法は分散分析の 1 種ですが、要因分散分析と同様に群間にばらつきが大きいかを検討するだけでなく、群内要因の影響についても検討できるという特徴があります。もちろん、分散分析と同様、要因の交互作用についても検討することができます。要因分散分析が対応のない t 検定を 3 群以上に拡張したものと考えれば、反復測定分散分析法は対応のある t 検定を 3 群以上に拡張した方法と考えることができます。

分散分析の結果は、分散分析表に集約されます。この分散分析表をみると、例えば有意水準を5%と設定して検討を行った要因について影響が有意であるかどうかがわかります。この例では、測定時点という群内要因によって、物質の血中濃度に差があると判定されています。

2. 解析方法の理解

1. 反復測定分散分析モデルの特徴
 反復測定分散分析モデルが要因配置分散分析モデルよりもふさわしい状況は、基本的に同じ測定項目が同じ実験単位 (例えば同一の患者・実験動物) から条件だけ変えて測定されている場合です。このような場合に、あえて要因配置分散分析モデルを選択することも可能ですが、次のような欠点が考えられます (裏返すと、これが反復測定分散分析法の長所といえます)。
実験単位を条件ごとに変えて測定を行うためには、実験単位を多数集める必要が生じます。そのためには費用がかかったり、現実的に不可能なこともあるでしょう。
できるだけ様々な影響を排除しようと無作為に条件を割り当てても、実験条件と実験単位の間に偏りが生じる可能性があります。このような現象は擬似相関と呼ばれますが、反復測定分散分析はこのような影響を取り除く形で解析できるものの、要因配置分散分析では困難です。

2. 群内要因と群間要因
 反復測定分散分析では、影響を検討する要因には 2 種類あることを理解しなければなりません。1 つは反復測定された要因 (群内要因) であり、この要因による変動は群内変動と呼ばれます。もう 1 つは反復測定ではない要因 (群間要因) であり、この要因による変動は群間変動と呼ばれます。
群間要因は、通常の分散分析 (要因配置分散分析) で割り当てられる要因と同じものです。反復測定分散分析の場合であっても、群間変動の評価は通常の分散分析と同様に検討することができます。
群内要因を評価する際には、この要因により分割された群は統計学的に独立でないことに注意する必要があります。統計学的に独立である必要がないため、効率的なデータ収集が可能となるなど長所があります。しかし一方で制約もあり、例えばこの要因について多重比較検定を行うことは推奨されません。(多重比較検定は、独立した群間の比較を行う統計解析方法です。

3. 反復測定分散分析モデルでの変数の割り当て
 StatView で反復測定モデルを使用する場合には、解析対象変数が 「コンパクト変数」 でなければなりません。コンパクト変数に含まれる分類が群内要因として設定されます。なお、設定された群内要因については、[操作] → [カテゴリーの編集…] で表示名を変更することができます。

4. 主効果と交互作用
 2 つ以上の要因を対象とした分散分析では、各要因の影響 (主効果) だけでなく、複数の要因が組み合わさった場合の影響 (交互作用) を検討することができます。この点については、要因配置分散分析 (第 3 章) を参照してください。

3. 解析手順

次のように帰無仮説を設定し、1~ 6 の手順で解析を行います。
対応のある要因 (測定時刻) によって、測定値 (物質の血中濃度) に差がない

1. データシートの準備
 解析対象の変数を含むデータシートを準備します。

2. [解析] → [新規ビューシート]
 [解析] メニューから [新規ビューシート] を実行します。
3. 解析方法の選択
 解析一覧から、[分散分析] を選択します。
 この操作では、分散分析のうち 「分散分析表」 のみが選択されます。さらに解析内容を選択指定する場合には、[分散分析] 左側の三角マークをクリックし、表示される詳細な解析内容リストから必要なものを選択してください。
4. 解析領域の作成
 [解析の実行] ボタンをクリックします。
 この操作でビューシート上に解析内容を表示する領域 (プレースホルダ) が配置されます (この段階では、内容はありません)。なお、分散分析では解析オプションを指定する必要があるため、プレースホルダが配置される前に解析オプションダイアログが表示されます。
5. 解析オプションの設定
 分散分析で利用可能なオプションを指定します。

6. 変数の指定
 解析に用いる変数を指定します。
 以上の操作で、解析結果がウィンドウ上に表示されます。

4.解析結果の解釈

 では、反復測定分散分析を理解するために必要な項目を順に確認しましょう。

分散分析表
 分散分析の結果はこの分散分析表に集約されます。各項目が何を表すのかは、第3章を参照してください。分散分析表の危険率 (p値) が有意水準 (例えば0.05) よりも小さい場合は、その要因の影響が有意であると判断します。この結果、測定時点という反復測定された要因 (群内要因) はこの物質の血中濃度に有意な影響を与えていると判定されます。

比較:
 この例題を要因配置分散分析により解析すると、次のように測定時点による影響は有意とはいえません?(基本統計量、交互作用グラフはどちらの解析モデルでも全く同じものが得 られます)。

参考:
 群間要因(性別) を割り当てた場合の反復測定モデルの分散分析表は、次のようになります。
基本統計量
 この表では、測定時点という反復測定された要因 (群内要因) により分割された群について測定値 (この例題では物質の血中濃度) の集計結果が表示されます。この表だけをみると群間に差はなさそうに見えますが、基本統計量では反復測定分散分析と要因配置分散分析を区別する事ができません。反復測定した要因について単純に群分けしてしまった場合には、対応に関する情報を生かすことができないのです。

交互作用棒グラフ・交互作用折れ線グラフ
 各要因によって分類された群について、棒グラフ/折れ線グラフが表示されます。解析オプションで指定すれば、誤差線 (エラーバー) を付けることができます。

以上から、次のような事項が分かります

  • 反復測定分散分析法により、反復測定された要因・測定時刻が物質の血中濃度に有意な影響を与えていると判定された。
  • 同データについて要因分散分析を行った場合には、測定時刻の影響は有意とは判定されないことから、対応のあるデータを対象とする場合には反復測定分散分析が有効であることが確認された。

【参考図書・参考文献】

  1. StatView (R) 統計編。SAS Institute、1998
  2. 池田 央 編:統計ガイドブック。新曜社、1989
  3. 古谷野 亘:数学が苦手な人のための多変量解析ガイド。川島書店、1988
  4. 石村貞夫:分散分析のはなし。東京図書、1992
  5. 長田 理:臨床医のための統計テクノロジー。中外医学社、1996
    本書では、解析手順を中心として多変量解析の実際をお示ししました。本章で取り上げた解析で得られた結果を更に詳しく考察する際に、この本が参考になるでしょう。
  6. 長田 理:実例で考える統計解析の落とし穴。克誠堂出版、1999
    この参考書では、本章で取り上げた解析方法を利用する際に、よく陥りがちな誤りや、なかなか気のつかない工夫点などが記載されています。実際の研究現場で重宝することでしょう。